私は昔から、極端に好かれるか極端に嫌われるかのどちらか。
『ビハインド・シャンゼリゼ』
それは大体決まったパターン。別にね、連中の言うみたいに“ぶりっ子”やってるつもりはないのよ。口に出せば嘘つけ・って言われるけれど。
私はいつだって無理なんかしてない。ただ嫌われたくない人たちの前ではなるべくキレないようにして、顔も見たくない人たちの前では思うとおりにキレるだけ。自然でしょう?好きな人に、これからもずっと話したりしていきたい人に凶器を向ける馬鹿が、どこにいるって言うのかしら?口ばっかりの鬱陶しい奴に、にっこり笑いかけて甘い言葉を投げる馬鹿が、どこにいるっていうのかしら?
私はむしろ他の連中よりよっぽど自然体でいるつもりだった。なのに連中は、私のことを嫌うのよね。
『二重人格』『女狐』何度言われたかしれないけどごめんあそばせ、私、あなた方のことなんて眼中にありませんわ。
私が見ていたいのはあの方。あの方々。目指すものの為に、今は無理でもいつか理想を手に入れるために、ただひたすら努力しているあの方々。その姿を傍で見つめて、そして少しでも助力する。それだけで私は幸せなのです。
だからいくら傷つけようとしたってこの心を折ろうとしたって、無駄よ。
「ちょっと、聞いてんの!?」
ヒステリックな声で我に帰る。気が付けば囲んでいる人間が少しばかり増えている気がした。まぁなんて暇な人たち。
「…聞いていますわ。真面目に聞いてるように見えませんでした?ならごめんなさい」
「ほら、その態度がうざいっつってんのよ!何アンタ、ですわますわってお嬢様気取り?キレたらどんな凶器でも持ち出す危ない奴のくせに」
適当に頷いて聞き流しながら、なんてやかましいんでしょう・と思っていた。嫌ぁね、女の嫉妬だなんて、醜い以外のなにものでもないわ。そしてもっと醜いのは女と女の言い争い。このままだとまた頬を張られたりどこか引っ掻かれたりするのかしら。いやだ、傷つくのも嫌だけどそんな醜い最中にいる自分を想像するのが嫌だわ、争いごとなら私の居ない所でやってくださいませ。あ、私が争いの原因でしたか。
「…ちょっと!やっぱアンタ聞いてないでしょ!!」
「え?」
また自分の思考にふけってしまっていたらしい。つと顔を上げると相手の顔の険しさが三割増しになっていた。しまった、これは少々失敗したようだ。悟ったが、もう遅いと分かっている。
「このっ…馬鹿にして!」
振り上げられる右手が見えた。ああ殴られる・覚悟し、ぎゅっと目をつぶる。その時、
「何してんだお前ら!」
声が、した。
あまり太くはないが、裏道に響き渡るほどの声量は持っていたその声に、囲んでいた連中全員がびくりと肩を震わせていた。夜摩狐はただ吃驚して目を丸くする。遠く見えていた表通りの白い光、そこに立つ黒い影。
「…やばっ……」
誰かが呟いたのを合図に、ばたばたと女達が散り始める。その背中をただ眺めた。あぁこれからちゃんと部活に戻る気はあるのかしら、っていうか粉末ドリンクの買出し手伝ってくださるんじゃありませんでしたっけ先輩方?
誰かに怯えるくらいなら何もしなければいいんだわ。弱い人。
はぁとため息をついて、薄汚れた壁に押し付けていた肩を軽くはたく。そして下に向けた視線、その先に、見慣れない黒い足先が見えてぴたりと固まった。顔を上げる。が、上げきる前に止まる。足の主は、自分より十センチ以上は小さそうな、
「大丈夫か、ねーちゃん。」
子供?
「……大丈夫、ですわ」
やっと言って、それからまじまじと見つめてみる。相手の方も自分をじっと見つめていて、その顔は焼けていると意識させるほどでは無いもののそれなりに日光の下で活動していることを示していた。くるりと丸い瞳は淡く緑を帯びて見える黒、背は低いが身体の線はそう細くない。ただ体格の割には酷くあどけない顔つき、それはきょとんと目を丸くした表情がそう見せているだけかもしれないけれど。
真っ黒な学生服に、くすんだ金色と茶色の中間のような髪色はどうも似合っていなかった。
「君が、さっき声をあげたの?」
「ん?そだよ。明らかに他のねーちゃんたち恐いカオしてたからさぁ、おまけになんか殴るみてぇに手振り上げたりしてたし、ちょっとうちのオヤジに似てたよ、怖ぇから止めたんだ。別に良かっただろ?」
「…ええ。ありがとう」
少し笑って、
「中学生?」
「おー。ねーちゃんは高校生か?」
「そうよ」
「うわーいいなー!俺も早く高校行ってにいちゃんたちと一緒に野球してぇー!!」
「!」
目を見張る。そうか背の割に筋肉はしっかりついているようだったのは、
「君、野球をしてますのね」
「そだよー。あと二年したら、ぜってぇ甲子園行ってやるんだ」
へへへと楽しそうに笑って言う少年に、僅かな苦笑だけ漏らした。ああやはりあそこは野球をする全ての少年にとっての夢の場所なのね。願うだけでは見ることも適わない夢だけど。
「行けるといいですわね」
「行くさ!だってにいちゃんもオヤジも居るんだから…って、あ!そぉだ、にいちゃんとか言ってたら思い出した!!」
「え?」
「なあなあ、ねーちゃんってこの辺の人なんだよな」
「そうだけど…」
「良かった!!」
にぱっと顔いっぱいに笑う。その笑顔があまりに翳りなく鮮やかで、一瞬呆気に取られたが、次の彼の言葉に夜摩狐はますます口をあんぐり開けた。
「俺さぁ、半年ぐれぇ前に引っ越してきたばっかで、まだこの辺の地理よく知んねぇんだ。で、にいちゃんにお使い頼まれてスーパー行ってたんだけど、帰り道分かんなくなっちった。ねーちゃん、×××ってとこ知らねえ!?」
「……」
はたと思い当たる。そういえば何故この少年はこんな薄暗く汚い裏道などに足を踏み入れてきたのかと。本当なら野良猫ぐらいしか通らないような所なのに。
道探してたんですか。ずっとずっと帰り道探してて、たまたま大人数で一人を囲んでる不審な光景見つけて、そして仲裁に入ったりしたんですか。ていうか×××って、車でも数十分かかる所じゃありません?
「…、……変な子…。」
「ん?何?」
「なんでもありませんわ」
にこにこしたままの少年を曖昧にごまかして、くすりと笑った。
「お礼、ね。少し付き合ってあげましょう」
「やったー!案内してくれんのか?」
「…いえ、私の体力じゃあそこまで一緒に歩くのは無理ですわ。バス停まで案内して差し上げます」
「えー、バス?俺歩いて帰れっぞ、多分」
「だから、そこから信じられませんの。今日は緊急事態なんだからひとまず見覚えのある所まで運んでもらいなさい。…大体、お兄さまが意図したスーパーって多分この辺じゃないでしょう」
「うん、だってスーパーからだいぶ歩いてここ来たもん」
「一度到着した場所から戻るのに何故そこまで逸れるのかしら…」
首を傾げながら歩き出す夜摩狐の後ろを、てこてことついて歩く。すぐに追いついて、横に並んだ。
「ホント助かったよありがとなねーちゃん、本気で道わかんねーしどうしようかって思ってたんだ。そういやあの他のねーちゃん達って結局何?喧嘩ならあんまし良くねーぞ、今度会ったらちゃんと話して仲直りした方がいいって。あ、そういえばにいちゃんどうしてるかな、遅いっつって怒ってるかもな…あーあ、ちゃんと買い物するまでは出来たのに、結局怒られちゃうよ俺」
ぺらぺらぺらぺらよく喋る。が、不思議と自己満足的な雰囲気は感じさせない。ただその明るい声音にじっと耳を澄ましたくなるような、そんな気にさえさせる陰の無さ。
バス停までの五分ほど、ほとんど少年が喋り通して夜摩狐はただ頷いていた。話の大半は兄の自慢と野球の素晴らしさ。普通なら好い加減こちらと共通の話題を探れと言いたくなりそうなほどだったが、それでも居心地の悪さや苛立ちは無かった。
「ほら、来ましたわよ。あれに乗って、×××へ着いたら降りなさい。…お金、持ってますわよね?」
「うん、お使いのお釣りあるからだいじょぶ。あとで返さなきゃなー」
言っているうちにバスは目の前に来て止まり、空気の抜けるような独特の音を発しながらぱかりと扉を開けた。
「じゃな、ねーちゃん。今日はホントにありがとな」
「いいえ、…こちらこそ」
本当は色々に思いがあったけれどそれは言わずにやんわり微笑んで言った。それでも少年は満足そうで、ばいばい・と手を振り、ステップにぴょんと飛び乗る。と。
「…あ!」
その小さな頭が唐突にくるりとこちらを向いたので、驚いてびくりと肩を震わせる。だがそんな夜摩狐の様子には少しも気付かない様子で少年は、ぎりぎりいっぱいまで目をまん丸く開けたまま、
「そういや、ねーちゃん、名前!名前聞いてなかった、俺っ」
酷く慌てた様子で早口に言う。言われて、あぁ・と夜摩狐も瞬きをした。そういえば自分の中で彼はまだ“少年”、名前の無い見知らぬ少年・のままだ。
でもそれがそんなに慌てるほど大事なことかしら。どうせもう二度と会わないでしょうに。
思ったけれどやはり言いはしなかった。ただ告げる。
「夜摩狐。夜摩狐撫子、ですわ。」
「やまこ?」
「夜中の夜、摩擦の摩、それにキツネの狐。…家が神社ですから、地図でも電話帳でもすぐ見つかると思いますわよ」
「へー神社なのか、ねーちゃんち!そういえばなんか髪についてる後ろのやつ、注連縄っぽいな!」
「……注連縄、ね。否定はしませんけど好い気分はしませんわ…」
どうしても玄関先にぶら下がっているイメージがあって。ぶつぶつ言っている夜摩狐をよそに、少年は先にも増してますます満足げな笑みを浮かべ、夜摩狐な夜摩狐、と口の中で繰り返していた。後ろで運転手が早く行きたそうな顔をしている。あまり待たせるわけにはいかないだろう、思い、口を開いた。
「ほら。バスを待たせてますわよ」
「あ、やべ!忘れてた」
心底慌てた様子でポケットから小銭入れを取り出し、いくつかの硬貨をちゃりちゃりと料金箱に入れる。ああもうバスが出る、それでこの子との縁も終いだ。そう思いながら眺めていた。と。
「そーだ、俺の名前言ってねーよな」
再びぐりっとこちらに向けられた顔。その笑顔は、陳腐な表現だとは思いつつも『まぶしい』と、『まぶしいほどの笑顔』だと言わせる何かを持っていた。太陽に似て。
「俺、由太郎!理由の由に太郎で由太郎、村中由太郎ってんだ。また会えっといいな!!」
目を丸くする。思わず口を開きかけたが、それより先にバスの扉は音を立てて閉まってしまった。わずかに夕陽を反射するガラスの向こうで、由太郎がぶんぶんと手を振っている。
“ばいばい”
声は聞こえなかったがそう言っていることぐらいは分かった。そしてその後に彼が続けた短い言葉も。
無意識の内に手を上げ、軽く振る。
ぷしゅん。扉の閉まる時と同じような音を出して、ゆっくりとバスは動き出した。遠ざかる扉。少年の影。
「……むらなか…。」
脳裏をよぎったのは、高校へ入学して間もなく耳にした伝説だった。止まった時計、自分が憧れて毎日見ている人々全ての誇り、その主役、その人の名前。
野球と村中。この二つに揃ってしまわれては、連想するなと言う方が無理かもしれなかった。十二支の生徒で野球部マネージャーをやっている人間としては。けれど、
「まさかね」
くすりと笑う。伝説の選手と先ほど隣にいた小さな少年とを一瞬本気で結びかけた自分が可笑しかった。
まさか、有り得ないわ、そんなの。出来すぎでしょ?
でも、そうね。出来たら。もし、機会があったなら。
“またな”
思い返した彼の言葉に少し目を伏せて微笑った。
「ええ。」
またいつか、会いましょう。
----------------End.
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あっはっは、日記で散々言っててついに形になりました、黒撰がらみ捏造ノマカプ第二弾・ユタ狐ですー。ゆたこ。いい響き(ぇ) なんか落ち着かないので小猫と同様、とりあえず出会いから。他サイトさんの影響で夜摩狐さんは同性のウケが悪かったと思っております。そんな設定です。マネージャー先輩からイジメ。…うわぁ怖い;; 冒頭の夜摩狐さんの独白は結構日朝の思考も入ってたりします…女同士の争いって怖いですよね痛々しいし(汗) アレを楽しんで見れる銀魂の沖田はすごいと思うんだよマジで(は?)
で、文の端々でなんとか表現したつもりなんですが、ユタはまだ十二支近辺に来たばかり。だって魁が黒撰に途中で入ってきたってことは…引っ越したんですよね?アレ。…違うんかな……(汗) まあうちの設定では引っ越してきたってことで(投げた) なんで中学生時なんて微妙な設定したかというと、「ユタ狐いいかも!」って思ってから気になってプロフ確認してみたら、ユタと夜摩狐って身長一緒なんですよね……(汗) 私的に、どうしてもユタはちっちゃくあって欲しかったんですよ。夜摩狐姐さんに見下ろしてほしかったんですよ。「俺いつかねーちゃんより大っきくなって、ねーちゃんのこと守ってやっからな!」なユタが良かったんですよ(何この妄想120%)
ユタ狐は、どうも女の子の方が攻めっぽくなりやすい私の嗜好にあって珍しく完璧男側攻めでいきたいカプです。ユタは一度恋愛に興味持ったら多分押せ押せキャラだと思うんですよ。こんなサワリでしかないお話じゃまだ分かんないと思いますが、仲よくなったらそりゃもう、ぴとってくっ付いたりぎゅって抱きついたり色々しまくるんです。夜摩狐姐さんがちょっと怒ってもあの笑顔で全部流しちゃうといいです。そして毎回その笑顔に負ける夜摩狐さんがいい(笑) 昔見た夜摩狐攻め百合小説の記憶があるせいか、夜摩狐さんは強力攻めキャラってイメージあったんですが…ユタくっつけてみたらびっくりするほど可愛らしく受けっぽくなるのな。ユタすげぇ、最強(ぇ)
タイトルは言わずもがなですが適当です。裏道での出会いっていうのと、通りの近くで男女の出逢いといえば「おおシャンゼリゼ」(←てきとう(歌です))ではないかなというのとで。本当に「裏道」ってしたいなら「バックストリート」なんですが。ビハインドってなんか浮かんで、なんか合ってる気がしたので、ほうっときました。ごめんなさい。私の使う英語はみんなエセです…(ぁぁぁ)
まあそんなわけで、ユタ狐。ばしばし増える予定。鼻で笑ってやって下さい、ちょっとでも萌えた方はどうぞお友だちになってください(ぇぇぇぇぇ)